"東方南瓜祭"   1   

 気持ちのいい秋晴れの日だった。
 森の木々は色づき、冬の訪れを少しずつ迎えようとしている。
 紅葉狩りにはまだ少し早い、そんな季節。森の入り口に居を構える霧雨魔法店のポストに、一通の封筒が届いていた。
「お、手紙が届いてる。珍しいな」
 魔法店の主・霧雨魔理沙は、本来の役割果たしているだけのポストを、さも珍しいものを見つけたかのようにのぞき込んでいた。
 いつもなら、頼んでもいない新聞が届くだけのポストから、赤い紋様で縁取られた封筒を取り出す。
 赤、という色に、一つの場所を思い浮かべながら裏返す。予想通りの、しかし自分宛てに手紙を出すあてがなさそうな人物の名を見つけ、首をかしげる。
 封を切ると、中から2枚の便せんが出てきた。
「魔法が仕掛けられてる、ってわけじゃないか」
 お子様吸血鬼のしでかすことに注意を払うように、2枚のうち薄い紙の方を開く。
「なになに……」
 文面はこんな感じだった。


今月の末、西洋の古いまじないに倣って、私の館で仮装大会を開催します。
皆様、めいめいの考えつく衣装をまとって、是非お集まりください。
コンテストに参加する方は気の合う友人とチームを組んで、優勝を目指してください。
賞品には、とっておきの宝ものを用意して、お待ちしております。


 流ちょうな文字でそう書かれていた。
「なんだ、パーティーのお誘いか」
 何かしらの仕掛けを警戒していただけに、拍子抜けだった。
「しかし、気になるぜ。とっておきの宝ものか……よしっ」
 何かを決めたような、きらきらした輝きを瞳に灯して、魔理沙は家の中に駆け込んだ。テーブルの上に手紙を投げ出すと、お気に入りのとんがり帽子とほうきを掴み、振り返ることなく家を飛び出した。
 場所は紅魔館、月末まではあとわずか。吸血鬼の根城にて、怪奇たちの夜宴が幕を開ける。
 残された手紙は、投げられた勢いのままテーブルの上でくるりと舞う。
 文末には、美しい血文字が踊っていた。
『ハロウィンの夜に、レミリア・スカーレット』


東方南瓜祭



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