"東方南瓜祭"     3 

「で、他にあてがないから来てみたぜ」
 魔理沙は紅魔館の地下にある大図書館に来ていた。
「こういうことは、私より博霊の巫女にお願いした方がいいと思うわ」
「またそんな実も蓋もない」
「そんなものは最初からないもの。用事はそれだけ?」
 大図書館の主パチュリー・ノーレッジはそっけなく言うと、手元の魔道書に目を落とした。
「それだけだぜ」
「そう……」
「けど、このまま引き下がるような私でもない」
「どうすれば帰ってくれるの?」
「パチュリーが首を縦に振るまでだな」
 微塵のゆらぎもなく、自信満々に答える魔理沙。
 パチュリーは口元で小さくため息を吐く。
「どうして魔理沙は私に?」
 最初に抱いた疑問だった。こういうことを誘われて、のこのこと出て行くような私でないことは、魔理沙なら分かっている、とパチュリーは思っていた。
「あんまり詳しくないけれど、ハロウィンってのは仮装を楽しむものだからな。チームって聞いて、魔法使い同士で組んだら面白いと思っただけだぜ」
 楽しそうに話す魔理沙を見ながら、その横でハロウィンの仮装をする自分の姿を想像してみた。パチュリーの知るハロウィンと、魔理沙の格好が普段とあまり大差がないような気がしておかしかった。
 自分がどんな格好をしているかは、イマイチ想像ができないでいる。
 チームを組むとか自分が出場するのにはためらいがあるが、魔理沙の仮装は見てみたいと思うパチュリーだった。
「お誘いありがたいけれど、私には仮装は……」
 と、そこまで言いかけた時だった。
 パチュリーの仕掛けた魔法が、大図書館への来客を知らせる。それと同時に、大図書館の扉が吹き飛ばされて転がった。倒れ込んだ扉で図書館の中に埃が舞う。その向こうから、一人と数十体が姿を現す。
「ま〜り〜さ〜」
 アリスだった。
 明かに怒っていることは、アリスの周囲に数え切れないほどの人形たちが戦闘態勢で従っていることからも分かる。
「やばいな、もうばれたか」
 焦りを見せずに、焦りの言葉を紡ぐ魔理沙。
 アリスの怒りの矛先が誰に向いているかも一目瞭然だった。
 パチュリーの心配事は唯一つ、図書館に被害が出ないことだけだ。が、それは無理な願いであることは明白だった。
「珍しくしおらしいと思って油断した私が馬鹿だったわ」
「馬鹿って言う奴が馬鹿なんだよな、確か」
「そうね、馬鹿ね。でも、返してもらうわよ、その腰にくくりつけてるものを」
 魔理沙の腰には、紐でくくられてぐったりしている上海人形がぶら下がっていた。
「断る。参加してくれないアリスの代わりに、上海に一緒に出てもらうことにしたからな。死ぬまでとは言わないが、あと数日は借りておくぜ」
「馬鹿はあんたよ。繰り人形もできないくせに、一緒に参加できるわけがない」
「バーカ、バーカ」
 二人を傍観していたパチュリーは、どこかで何かが切れる音がしたような気がした。
「もう許さないっ」
 アリスが腕を振り上げると、人形たちが一斉に魔理沙に襲いかかる。
 同時多角攻撃を巧みに避けると、魔理沙は嬉しそうに笑いながら後退していく。
「悪いなアリス。こいつは預かった。返して欲しければ追いかけてくるといいぜ?」
 上海人形をくくりつけた紐を掴むと、ぶんぶんと頭上で振り回す魔理沙。目が回る上海。
 迫り来る人形の攻撃を避け、時にレーザーで反撃しながら図書館の中を縦横無尽に駆けめぐる。
「魔理沙、待ちなさいっ!」
 図書館の奥へと下がっていく魔理沙を追いかけて、アリスも図書館の奥へと走っていった。
「二人とも、ちょっと……」
 後を慌てて追うパチュリー。
 魔理沙の楽しそうな声と、アリスの怒りに満ちた声と、なんとか止めようとするパチュリーの声が、大図書館の中にいつまでも響き渡っていた。

東方南瓜祭

 ハロウィンの夜まで、あとわずか。




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