"東方南瓜祭"    2  

「さて、次は、と……」
 一つの手順を踏み、また次の手順へと。
 慣れた手つきで、次々と魔法を重ねていく。ただの人形を、魔法の人形に仕立てあげるには、多くの手順が必要になってくる。
 七色の人形遣いと呼ばれる魔法使いアリス・マーガトロイドは、自分専用の人形を作り上げている最中だった。
 集中力を必要とする一連の作業の最中は、家を閉めきって誰が来ても対応することはない。
 作業は佳境だった。ここで集中力を切らしては、魔法は成功しない。アリスはより意識を集中し、指の先に全身全霊を込めていった。
 あと一息で完成する、その瞬間だった。
 魔法によって施錠され、外界からの干渉を遮断するはずの窓が、破壊音と共に窓枠ごと粉々に吹き飛ばされた。それと同時に、窓の向かいに置いてある人形棚に何かが突っ込んでいた。
 部屋全体が煙と埃に包まれる中で、部屋に突っ込んだそれはよろよろと立ち上がった。
「しまったな……失敗したぜ」
 反省も後悔も感じさせぬ明るい声が、煙の向こうから聞こえてくる。
 アリスはすぐさま犯人の姿が思い浮かんだ。
 幻想郷の中でも数少ないであろう、自分が張った魔法結界を破れる者で、その中でも理不尽な理由で攻撃してくる人物は何人か思い浮かぶが、強引かつ粉々に破壊してくる人物は唯一人。
「魔理沙ぁ〜!!」
 煙が引いた部屋の中、人形と本に埋もれて、霧雨魔理沙は苦笑いをしていた。

「上海、私はアールグレイな」
 目の前で、てきぱきと片づけていく人形に注文をする魔理沙。イスに座り、足をぶらぶらとさせている。
「あんたも手伝いなさいよ」
 テーブルを挟んだ向かいにはアリスが呆れた顔で座っている。
「これでもお客様だぜ? 客はもてなすのが相場だと思うんだけどな」
「招かれざる客は別よ。肝心なところで邪魔してくれて、どうしてくれるの?」
「手伝って欲しいなら手伝うぜ?」
「いや、いいわ。遠慮しておく。それで、今日は何の用よ?」
「さすがアリス、話が分かる」
 言いくるめられたような気がして、アリスは盛大にため息を吐いた。今夜は人形を作り上げる気にもならない、大人しく魔理沙の用件に耳を傾けるしかないと観念していた。
「言っておくけど、ハロウィンには興味ないわよ?」
「おぉう、どうしてそれを?」
「やっぱりね」
 人形を作り上げるその前に、最後にやったことが手紙を読んだことだった。タイミングが良すぎるとは、まさにこのこと。
「なんとなくよ。魔理沙の用事っていったら、物を盗んでいくか、厄介事に首を突っ込むことくらいでしょ」
「盗んでいくんじゃなくて、借りてるだけだぜ」
 厄介事の方は、否定はしない。
 自称借りていっているだけのアリスの所有物も、空で数えるだけで両手では足りないほどある。
「まぁ、分かってるなら話は早い。出ようぜアリスー。とっておきの宝もの、気になるだろ?」
「イヤよ」
「即答ときたか。機嫌が悪いのか?」
「悪いわよ、部屋をこんなにされて!」
 テーブルを叩き、周囲をぐるりと見渡す。
 整然としていたアリスの部屋が嘘のよう。棚は完全に崩壊し、並んでいた人形総動員で片付けをしている。窓の補強は終わっているが、どこからかすきま風が吹き込んでくる。
「それを言われると弱い……。だけど、とっておきの宝もの、気にならないのか?」
 確かに、気になりはする。
 500年以上生きているとされる吸血鬼が持つ、とっておきの宝もの。蒐集家のアリスが興味を持たないはずはなかった。
 かといって、このまま魔理沙の誘いに乗るのも癪、そんな気分だった。
「気に……ならないわよ。悪いけど、他を当たってもらえるかしら?」
 と、突っぱねた。
 ふいと顔を背ければ、目の前の魔女がしでかした惨状が飛び込んでくる。これで、新しい人形作りはしばらく中断となるだろう。気晴らしに、藁人形でも打ち込みに行こうかしら?
「そうか、残念だぜ……」
 魔理沙にしては、しおらしい返事だった。さすがに反省しているのかもしれない。反省しているというのなら……。
「まぁ、魔理沙がどうしてもって言うなら――」
「仕方がない、他を当たることにするぜ!」
 魔理沙はあっさりと引き下がった。
 きょとんとするアリスを尻目に、イスから立ち上がる魔理沙。
 申し訳なさそうな表情で、正面に見据えてくる。ように、アリスには見えた。
 とんがり帽子を深くかぶり直すと、今度は窓を開けて、ほうきを片手に部屋を後にした。
 残されたアリスは一人、魔理沙の背中をいつまでも見送っていた。




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